寄せては返す筑後の光る川波の如く　味の押し波　余韻の引き波　心深くたゆたう美酒
チーム力で醸す新世代日本酒のニューウェーブ「若波」

若波酒造は福岡県南東部、家具の街としてつとに有名な大川市にあります。筑紫次郎の異名を持つ九州随一の大河・筑後川の河口近く、悠然とした川の流れと国指定重要文化財の筑後川昇開橋（1987年に廃止された旧国鉄佐賀線の昇降式可動橋）を間近に望む地に、大正11年（1922年）今村本家酒造の分家として創業しました。
明治26年（1893年）創業の本家筋・今村本家酒造から、当時は兄弟三人がそれぞれ分立して酒蔵を興しましたが現在では本家を含めて蔵を閉じ、唯一残る若波酒造が今村家の酒造史を引き継いで、新たな時代へと舵を切り始めたのです。
その先頭に立つのが、前杜氏で製造を総括する今村友香さんと4代目次期蔵元で専務の今村嘉一郎さんご姉弟。
姉の友香さんは、京都の同志社女子大学で日本文化を学び舞台の仕事に就くつもりでしたが、大学卒業の年の平成14年（2002年）にお父上が体調を崩されたことから、家業を手伝うために帰蔵することになりました。酒蔵の娘とはいえ、酒造りのことなど全くわからず当初は事務作業を主に担当していたそうですが、蔵入りして酒の発酵過程を見るうちに酒造りへの関心が高まり、広島県の酒類総合研究所で本格的に学び始めたのです。
そして平成18酒造年度から若波酒造8代目杜氏に就任し、福岡特産のいちご「あまおう」を使ったリキュールの開発に取り組むなど、次々とヒット商品を生み出してきました。
私の母校でもある駒澤大学を卒業後、東京の会社に勤めていた実弟・嘉一郎さんも28歳で蔵に戻り、さらに秋田県の酒蔵で働いていた庄司隆宏さん（現杜氏）ら若き蔵人が加わって「チーム若波」が始動、平成22酒造年度（22BY）から既存ブランド「若波」を酒質設計の全面的刷新により限定流通商品として立ち上げたのです。

「味の押し波　余韻の引き波」をコンセプトに、シルキーな滑らかさと軽快さがあり、やわらかな果実味とキレの良さを兼ね備えた酒を目指して醸したのが今の「若波」です。口に含めば綺麗で張りのある旨味が波頭ように押し寄せたかと思うと、スッと引くやさしい余韻を感じさせ、若手醸造家の無限の可能性を秘めた美酒として一躍注目を浴びることになりました。
平成24年（2012年）から始まった第１回福岡県酒類鑑評会でも「若波」大吟醸が初代県知事賞を受賞し、以降毎年金賞に輝く安定感のある酒質は賞賛に値します。１杯目から美味しく、しかも開栓後も少しずつ味わいが伸びていく美質は、しっかりとした原料処理から丁寧な火入れ、貯酒管理に至るまでの技術の高さを物語り、火入れタイプをメインに据えていることからもそれがわかります。
ブランド立ち上げ早々から高いレベルでの味わいを追求し、ブレのない酒造りを実現させた秘訣は、何といっても目指すべき蔵の方向性を明確にして一致団結した「チーム力」の賜物であり、それが飲み手にもしっかりと伝わってくるようなお酒へと着実に成長を遂げてきています。

「若波」との出会いは、平成25年（2013年）春のある日本酒イベントでした。チャーミングな魅力溢れる酒質に一瞬で心を奪われ、その年の秋に蔵のある福岡・大川を訪れてお取引をお願いしてきました。
そしてこの度、初めて飲んだ時の鮮烈な印象を、ぜひお客様にもご体感頂きたいとの思いがようやく実り、平成26年（2014年）11月より御縁を頂くことになりました。
間違いなくこれからの日本酒業界に若い力で新しい波を起こしてくれるお酒、それが「若波」なのだと、初めて飲んだ瞬間からずっと思い続けているのです。